「うつ症状」への「TMS治療」とは? 「薬に頼らない治療」を解説
これまで「うつ病」や「うつ状態」への治療は、抗うつ薬による薬物療法と、医師や心理師による心理療法が主体でした。しかし、薬物療法において、十分な量や期間で内服をしても効果が不十分な場合や、眠気や吐き気といった副作用で治療困難となる場合があり、西洋医学的な治療の限界とされていました。 (当院ではメンタル不調へ、副作用の少ない漢方薬治療も検討できます)
そんな中、注目を集めているのが「TMS治療(反復経頭蓋磁気刺激治療)」です。欧米ではうつ病の標準的な治療法の一つとして普及し、日本でも2019年から入院治療として保険適応され、大学病院など導入する医療機関が増えています。しかし、保険適応となるために国が定めた諸条件が厳しく、TMS治療を希望する多くの方に治療が届いていないのが現状です。
今回から数回に分けて、「うつ病」「うつ症状」からの回復を目指す貴方のための新しい選択肢「TMS治療」について、その仕組みからメリット、治療の流れまで、分かりやすく解説していきます。
そもそもTMS治療って何? 怖くない?怪しくない?
TMS治療は、特殊なコイルを用い、麻酔や侵襲なく頭蓋骨を飛び越えて脳に磁気刺激を加え、狙った脳部位の働きを正常な状態に戻そうとする治療法です。少し難しく聞こえるかもしれませんが、例えるなら「コリ部分におこなうマッサージ」のようなもの。現時点で、うつ病の患者さんの大脳では、感情や意欲に関わる「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」の機能低下を認めることが多いと示されています。TMS治療では、この部分を中心に磁気刺激を加え、局所の血流を増加させるとともに、神経細胞の活性化や関連する神経ネットワークの活性化をはかり、低下した脳機能を回復させ「うつ症状」の改善を目指しており、実際、世界中にいる6-8割の患者さんに理論通りの結果を得ています。
「脳への電磁気刺激」と聞くと、高電圧の直流電流を流す(修正型)電気けいれん療法のような怖い治療をイメージして不安になるかもしれませんが、TMS治療は空間を飛び越える磁場を利用する*ため、加えるエネルギー量や身体侵襲性などの点で全くの別物(低エネルギー、低侵襲)です。TMS治療は、全身麻酔を必要とせず、けいれん発作も生じさせないため、諸外国で広くおこなわれているように外来通院での治療も可能です。施術中はゆったりと椅子に座っているだけで、意識もあり会話も可能です。気になる痛みも、磁気刺激施行中だけ頭皮をはじかれるような頭皮痛がある程度です。
*正確には、電磁気学におけるファラデーの法則やレンツの法則に則り、電磁遮蔽されていない非導体を超えて《電磁誘導により誘導起電力と電流が生じる事象》別の表現では《変動磁場の変化量に対し打ち消す向きに誘導起電力「電位差;誘導電場」が生じ電流が流れる現象》を利用しています